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東南アジア向け越境ECは売れる?経済成長と拡大中のEC市場を解説
2023.04.26
「東南アジアは物価が安い」というイメージは、もう過去のもの。経済成長に伴い、東南アジアでは気づけば「以前より物価が高くなった」と感じる場面も増えてきています。
それなら東南アジアに向けた越境ECで、日本の商品がもっと売れる可能性もあるのでは……。
本当にそうなのか?最近の経済成長や市場データを踏まえて、東南アジアの越境EC市場について解説していきます。
越境ECにおいて、東南アジア市場が注目されています。これまではアメリカや中国の存在感が大きかったのですが、なぜ今、東南アジアなのでしょうか?
その理由は、経済成長と今後の可能性です。
これまでは発展途上のイメージも強かった東南アジア諸国ですが、近年、継続的に経済成長を遂げています。
下記が、アジア諸国と中国の実質GDP成長率の一覧です。
前年比4.0%を超えて成長しているところは黄色にハイライトされています。ちなみに実質GDP成長率 4.0%とは、日本の1970年代後半〜1980年代頃の数値とほぼ同じです。
東南アジア諸国と中国の実質GDP成長率(前年比、%)
国名 | 2021 | 2022 | 2023 |
ベトナム | 2.6 | 7.5 | 6.3 |
フィリピン | 5.7 | 7.4 | 6.0 |
マレーシア | 3.1 | 7.3 | 4.3 |
インドネシア | 3.7 | 5.4 | 4.8 |
シンガポール | 7.6 | 3.3 | 2.3 |
タイ | 1.5 | 3.2 | 4.0 |
中国 | 8.1 | 3.0 | 4.3 |
(出典:JETRO ビジネス短信 より抜粋して作成)
GDP成長率に着目すると、東南アジアの経済がどれだけの勢いで成長しているのかを感じることができます。東南アジアでは、中国と同等、またはそれ以上の勢いで経済成長している国々が多いことにも気づくでしょう。
さらに、ASEAN(東南アジアの10カ国が加盟)に関するデータを見ると、商圏の広さにも驚きます。
ASEANにはインドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスの10カ国が加盟しているのですが、総面積は日本の約12倍、人口は約5.4倍に相当します。
さらに、2021年におけるASEANの合計名目GDPは約3兆3,433億USドルで、日本の約1/3でした。世界の合計GDPは約97兆USドルなので、ASEANのGDPは世界の約3.5%にあたります。
こうした経済成長に加えて、 2020年のコロナ禍の行動制限により、インターネットや携帯などの普及が一気に広がり、EC市場も急拡大したのです。
欧米などの先進諸国と比べ、東南アジアではこれまでインターネットや携帯の普及率が低かった国も多いため、EC成長の勢いは目覚ましいものでした。
次に気になるのが、経済成長が続く東南アジアでの物価の推移。どのくらい値上がりしているのでしょうか?
下記が東南アジア諸国と中国のインフレ率を一覧にまとめたものです。3.0%以上のインフレ率を記録しているところを、黄色にハイライトしています。なお、日本経済において日銀が目標として掲げるインフレ率は2%です。
東南アジア諸国と中国のインフレ率(前年比、%)
国名 | 2021 | 2022 | 2023 |
タイ | 1.2 | 6.3 | 2.7 |
シンガポール | 2.3 | 6.0 | 5.5 |
フィリピン | 3.9 | 5.7 | 4.3 |
インドネシア | 1.6 | 4.2 | 5.0 |
ベトナム | 1.8 | 3.5 | 4.5 |
マレーシア | 2.5 | 3.0 | 3.0 |
中国 | 0.9 | 2.1 | 2.3 |
(出典:JETROビジネス短信 より抜粋して作成)
このデータから分かる通り、東南アジアではインフレ率は上昇傾向で、5.0%を超える国も珍しくありません。こうした国々では、物価が急上昇し続けているのです。
つまり「経済成長と物価上昇」、この2つが急速に起きているのが東南アジア市場です。平均所得が高まることで購買力もつき、物価の上昇により商品単価も以前より高くなっています。
ですから、日本から越境ECで販売した際にも、これまでよりも高い価格で商品を販売できるチャンスがあると言えます。
アメリカや中国に次ぐ、越境EC市場としても注目の東南アジア。経済成長も好調で購買力もあり、物価も上昇中……。そう聞くと、いいことづくめのようにも思えますが、注意しておきたいポイントもあります。
それは、中国市場との違いです。
東南アジアには中華系の人口も多いため、中華新年などの慣習や経済において中国の影響を受けている部分もあります。したがって中国との共通点もあるのですが、もちろん違いもあります。
ここでは、東南アジアにおける越境ECを考える際に理解しておきたい、中国との違いをご紹介します。
中国と東南アジアでは市場規模が異なります。
中国の2020年の越境EC市場規模は1,511億USドルでした。その後、2021年に1,773億USドル、2022年に2,051億USドル…と堅調に成長を続けています。
対して東南アジアは、それぞれの国における越境EC市場規模では中国を下回ります。しかし、東南アジアは成長率と可能性の市場です。
東南アジア6カ国(シンガポール、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、インドネシアの総合)では2019年から2020年にかけて、EC市場は驚異的な63%の成長率を記録しました。今後も20〜30%の高成長が続くと見込まれています。
JETROによる発表では、2022年は前年比20%増の1,940億USドル、2025年には6カ国のEC市場規模は約3,300億USドルに達すると予想されています。これは中国の越境EC市場に迫る規模です。
なお、2021年における中国の人口は14億人、ASEANは10カ国の合計で人口6億7,333万人でした。圧倒的な人口規模を感じるものの、2022年末には中国の人口が61年ぶりに減少に転じました。さらにインターネット普及率に着目すると、東南アジアは中国の普及率を上回る国もあるのです。
越境EC市場として考えると、東南アジアは中国に比べて「地域全体の総合力」や「EC成長の可能性」に期待できる市場だと言えるでしょう。
当然のことながら、中国と東南アジア諸国はロケーションが異なります。
つまり、日本からの距離が異なるため、越境ECを行う際にはそれぞれの国に適した配送サービスを利用する必要があります。
配送は越境ECには欠かせないステップです。発送する商品や地域に合わせて、コストパフォーマンスの良い最適な物流サービスを調べておくとよいでしょう。
東南アジア市場全体における可能性は理解いただけたかと思いますが、それでは日本から越境ECを展開しやすいのは一体どの国なのでしょうか?
日本から越境ECを進出させる際、下記の3つのポイントが判断のヒントになるでしょう。
上記の3つのポイントを比較的バランスよく備えている東南アジアの市場は、シンガポール、マレーシア、フィリピンです。
シンガポール
2022年のシンガポールの人口は592万人と小さな国ですが、インターネット普及率は92%。これは日本の82.9%(2021年 総務省)を上回ります。また、人口の90.9%がモバイルからインターネットを利用しており、ECとの親和性の高さもうかがえます。
小さなシンガポールには国内に目立った産業がないため、越境ECを使って近隣諸国から購買することに慣れています。
さらに、購買力に直結するGDPにおいては、シンガポールは1人あたり72,794USドルで、日本の39,285USドルの約1.8倍ということになります。(2021年 JETROデータ より)
日本よりも高所得者が多く、インターネット普及率が高いシンガポールの魅力はそれだけではありません。
東南アジアの経済的ハブとなっているシンガポールには多国籍企業も多いため、日本からの駐在員も多く住んでいます。そのため、在星日本人からの越境ECニーズも高いのです。
マレーシア
次に注目されるのが、マレーシアです。
これまで発展途上国のイメージが強かったマレーシアですが、近年の経済成長はめざましく、インターネット普及率は2020年に88%を超えました。人口約3,260万のマレーシアでは、約2,800万人がインターネットにアクセスしていることになります。
またECにおいては、80%以上のユーザーが携帯から買い物をしており、59%以上が月に1回以上利用するというデータもあります。
多民族国家でもあるマレーシアは、マレー系の他に中華系やインド系の人がいます。これは隣国、シンガポールと共通する部分があります。複数の国に向けて越境EC進出を行う場合、シンガポールでの越境ECノウハウをマレーシア市場で活かせることもあるでしょう。
マレーシア市場の可能性に気づいている日本企業はまだ少ないため、ライバルも少なく、チャンスのある越境EC市場だと言えます。
フィリピン
続いて、越境ECの進出先として押さえておきたいのがフィリピンです。
7,600を超える島々で国土が構成されているフィリピンでは、これまでインターネットの普及に遅れをとっていました。しかし2020年のコロナ禍の行動制限にも後押しされ、インターネット普及率は2020年に79%を超え、現在もさらに広がりを見せています。
親日国家でもあるフィリピンは、日本好きな人が非常に多いことが特徴。フィリピンの動画配信サービスでは日本のアニメが多く見られていますし、日本食の人気も非常に高く、マニラには日本食レストランが多数あります。
また、日本政府が古くからフィリピン人の日本受け入れを行っていた背景から、家族や友人が日本に住んでいる・住んでいたというフィリピン人も多数います。
東南アジア諸国の中で「日本に最も近い」という地理的なメリットがあるフィリピン。日本との馴染みの深さから、日本の商品が受け入れられやすい越境EC市場だと言えるでしょう。
東南アジアには上記の3カ国の他にも、タイ、インドネシア、ベトナムなどの経済成長を続ける国々が存在します。越境ECで展開する商品によっては、これらの国の方がチャンスがある場合もあるでしょう。
陸続きの東南アジアでは、歴史的にも様々な民族の行き来が多く、今も国内に複数の民族が暮らしていることが一般的。信仰心の高い国も多いため、宗教が購買行動に影響を与えている場合もあります。
東南アジア向けの越境ECでは、以下のような3つのポイントに留意し、ターゲットに合わせた商品選定や事業展開を行うとよいでしょう。
ポイント1:ターゲットを明確に決める
ポイント2:集客に直結するECプラットフォームやSNSは慎重に選ぶ
ポイント3:ターゲットの文化的背景を理解したブランディングを行う
国内向けECにおいてもターゲットの選定は非常に大切ですが、民族、商習慣、配送先が多岐にわたる越境ECではターゲットの選定が売上を左右します。
どの国の、どんな層をターゲットにするのか、明確に決めることが大切です。
それぞれの国の市場をリサーチし、競合他社の状況や現地のトレンドをしっかり理解します。同じ商品であっても、日本と東南アジアではターゲット層が異なる場合もあるため、「ニーズはどこにあるのか」を把握することが大切です。
越境ECを集客するうえで、ECプラットフォームやSNSの選択は大きな影響力があります。訴求したい国やターゲット層によって効果的なECプラットフォーム・SNSが異なるため、慎重に選ぶことが大切です。
日本で人気のECプラットフォーム・SNSが、東南アジアでは違った反応を受ける場合もあるため、現地の最新動向をチェックしておきましょう。
東南アジアは様々な民族が暮らし、信仰心の高い国が多い地域です。
そのため、言語だけでなく、生活習慣や休日も宗教などの文化的背景に影響されることがあります。中華新年やラマダン明けなど、文化や宗教に関連した時期の前後に大きく売上が伸びるケースは一般的です。
特に、信仰心の高い国や地域では、禁止されている行動・奨励されている行動を理解したブランディングがビジネスに良い影響を与えることがあります。季節の行事や食習慣だけでなく、文化的背景にも着目したブランディングが、越境EC進出において競争力を高める秘訣となります。
東南アジアは「地域全体の総合力」や「EC成長の可能性」が高く、今後も注目される市場です。こうした特徴を踏まえると、東南アジアで越境ECに進出する際は複数の国に出店するのがおすすめです。
中華系のみならず、マレー系やインド系などの民族は、東南アジアの複数の国に暮らしているため、国が違っても宗教や商習慣における共通点があります。
各国で人気のECサイトは異なるのですが、東南アジア地域における主要なECサイトへの月間訪問数は以下の通り。
順位 | ECサイト | 月間訪問数 |
1 | Shopee | 3億4300万人 |
2 | Lazada | 1億2800万人 |
3 | Zalora | 690万人 |
4 | Qoo10 | 370万人 |
(出典:Webrelaier より抜粋して作成)
ユーザー数を比較すると、シンガポール企業のShopeeが他を大きく引き離し、圧倒的に支持されていることがわかります。
東南アジア数カ国で展開するShopeeは、日本からの出店でもシンガポール、マレーシア、フィリピン、タイ、台湾の5カ国に対応していることが特徴。
本記事で狙い目として紹介したシンガポール、マレーシア、フィリピンに加え、親日国でもあるタイや台湾に向けても販売ができます。
経済成長に伴い、EC化や国民所得が急速に上昇している東南アジア。数年前のイメージとは違って、購買力を蓄えた人たちが増え、日本の商品が売れるチャンスも広がってきていると言えるでしょう。
東南アジアへ向けた越境ECを考えているなら、いくつもの国々で広く支持されているShopeeに出店してみては。
この記事を書いた人
Natsuko Sakurai
2拠点生活フリーランス。ロンドン、オランダ、スペイン 3ヵ国での在住や現地企業での勤務経験があり、帰国後も海外ビジネスに関わり続けています。コロナ禍をきっかけに、海外にしかオフィスのない現地企業との国際リモートワークが始まったりと、たえず働き方は進化中。